東京高等裁判所 昭和53年(ラ)402号 決定 1978年6月01日
再抗告人
柴谷鶴一
主文
本件再抗告を棄却する。
理由
再抗告人の申立の趣旨及び理由は別紙のとおりである。
再抗告人の本件申立書には「特別抗告状」の記載があり、その理由補充書には民訴法四一九条ノ二により抗告する旨記載されているが、民訴法四一九条ノ二の特別抗告は不服申立を許されない裁判に対し憲法解釈の誤りその他憲法違反を理由に特別に最高裁判所に抗告することを許したものであるところ、原審のした即時抗告却下決定に対しては民訴法四一三条による再抗告が許され、したがつて、特別抗告の要件を具備しないので、本件申立は再抗告であると認めて判断する。
原審が確定した事実によると、東京簡易裁判所の裁判官は民事調停法五条一項但書により裁判官だけが調停機関となり、再抗告人のした本件調停申立事件を審理判断の上同法一三条前段一五条により、本件がその性質上調停をするのに適当でないと認め、調停をしないものとして事件を終了させたというのである。
調停事件の係属した裁判所は不適法な調停申立を却下する裁判をすることができ、この裁判に対しては不服申立を許されている(民事調停法二二条、非訟事件手続法二〇条)。しかし、事件の配転を受けた調停委員会又は調停を行う裁判官(民事調停法五条)はそのような裁判をする権限を有せず、その事件が申立理由などからみて性質上調停をするのに適当でないと判断した場合、同法一三条前段又は一五条により、実際に期日を定め当事者双方に互譲を求めないで直ちに事件を終了させる旨の終局処理をできるのにすぎない。したがつて、調停機関のした右措置は調停申立を却下する旨の裁判の性質を有せず、不服申立の対象となる裁判に該当しない。また、同法及び民事調停規則にも右措置について不服申立を許す規定もない。
そうすると、本件において、再抗告人が東京簡易裁判所裁判官が調停機関としてとつた前記措置につき原裁判所に対してした即時抗告は不適法として却下を免れず、これと同旨の原決定は正当である。この点に関する再抗告人の主張は採用できない。
なお、以上のように解することは、憲法一四条、一九条に反しないことはもとより、調停は憲法三二条にいう裁判には該当しないから同条に違反するものではないことはいうまでもない。この点の再抗告人の主張も失当である。
よつて、再抗告人の本件再抗告は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。
(杉本良吉 高木積夫 清野寛甫)